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2019年1月30日水曜日

大阪なおみ選手の全豪優勝を可能にしたメンタルスキル

大坂なおみ選手、やってくれました!

全米オープン優勝の快挙に続き、全豪オープン優勝&アジア勢初の世界ランク1位。

テニス界、スポーツ界のみならず、日本全体に勇気と感動を与えてくれました!

試合を見ていた人は、2セット目をクビトバ選手が取った時に、嫌な流れを感じた人は多かったと思います。

私もライブで観ていましたが、大坂選手が3つのチャンピオンシップポイントを逃し、セットを取られた時は、まずい…と思いました。

しかし、タオルで顔を覆いながら、トイレブレークで室内に入った後、自分らしさを取り戻し、素晴らしいプレーで優勝を果たしました。

そこで気になったのは、

ブレーク中にどんなことを行い、あの状態から気持ちを整えたのか?

でした。

ということで、今回は大坂選手のインタビュー回答から、フラストレーションを対処するメンタルスキルに迫っていきたいと思います。


大阪選手の思考プロセスを紐解く
プレスカンファレンス(試合後の記者会見)でとある記者が、

「2セット目取られた後、どのように気持ちを落ち着けて、パフォーマンスを発揮したのか?」と聞いてくれました。ナイス質問!

大坂選手の回答は下記でした。

“I just thought to myself that this is my second time playing in the final. I can’t really act entitled to be playing against one of the best players in the world and to lose a set, and suddenly think that I’m so much better than her isn’t a possibility. I wanted to enjoy my time here. Last year, I lost in the fourth round and now this year was in the final so I wanted to be happy about that.”

「私にとっては、これが(グランドスラムでの)決勝は2回目。決勝で世界のトップ選手と戦うことが当たり前のように振る舞ってはいけないし、セットを失うことだってあると思った。そして、私が彼女より断然うまいなんてことはありえないと考えた。だから、この場を楽しもうと思った。去年は4回戦で負けてしまったが、今年は決勝まで来た。だから、その事実を幸せに感じたいと思った。」

この思考のプロセスにより、

(1)チャンピオンシップポイントを逃したり、セットを取られたイライラをコントロールし、
(2)置かれた状況への感謝や挑戦を楽しもうという感情を作り出すことができました。


リフレーミングと言われるメンタルスキル
(1)から解説していきたいと思います。

フラストレーションとは、平たく言えば、期待と現状の差から生まれます。


2セット目取れるはず(期待)だったのに、ポイントを逃し、逆にセットを取られてしまった(現状)。

期待通りに進まなかったことで、イライラという感情が出ていたわけです。

上述の記者への回答から、大坂選手はその期待が本当に正しかったのかと?と自分の思考にチャレンジしたことが伺えますよね。

世界トップの選手と戦っているわけで、自分が彼女より実力的に断然上で、2セット連取で勝つことを期待すること自体が正しくないのではないか?

「私が彼女より断然うまいなんてことはありえないと考えた。」というこの新しい考え方が、過度な期待を下げ、セットを奪われた現状を受け入れることに繋がったと考えられます。

つまり、フラストレーションを見事にコントロールしたのです。

フラストレーションという感情を生んでいる自分の思考に気づき、それが本当に正しいのかを検討し、望ましい思考に変化させたのですね。

この思考プロセスを、心理学用語では、リフレーミングと言います。

これを決勝の舞台で、しかも、あの短時間で冷静におこなったのですね。素晴らしいの一言!


捉え方が感情を生み出す
さらにもう一つの心理スキルも。(2)について解説します。

「この場を楽しもうと思った。去年は4回戦で負けてしまったが、今年は決勝まで来た。だから、その事実を幸せに感じたいと思った。」

この言葉からも、今置かれた状況を前向きに捉えようという大坂選手の意識が伺えますよね。

感情は、目の前の状況そのものがつくっているのではなく、捉え方に沿って生まれます(下の図の通り)。


逆に言えば、捉え方を意図的に変化させることで、出てくる感情を調整することができます。

昨年から大坂選手は「楽しむ」という言葉を多用しています。

勝ち負けがどうでも良いという意味ではなく、自分のテニスを存分に発揮するために、その場を楽しみたいのだと思います。

急がば回れ、みたいな見解をパラドックス(逆説)というのですが。

スポーツ心理学で確認されている最も有名なパラドックスが、「勝ちたければ、勝ちを意識するな」です。

美空ひばりさんの“柔”という歌の歌いだしで、「勝つと思うな 思えば負けよ」という歌詞もありますが()

勝ち負けに囚われるほどに、失敗に対する恐れが増長し、身体が硬直するなどしてしまう。

大坂なおみ選手の楽しむ姿勢は、ハイパフォーマンスを引き出すうえで、理にかなっていると言えます。


メンタルタフネス
プレッシャー環境下で、自分のやるべきことに意識を没頭させる能力を“メンタルタフネス”と呼びます。

全豪の決勝、嫌な流れで追いつかれての1セットオール。勝ちを意識するなというほうが難しい状況です。

大阪なおみ選手は、過度な期待を下げること、そして、自分が置かれている状況のポジティブな側面に意識を向けることで、自分がやるべきことに見事に意識を没頭させることに成功させました。

上述のような画面に映らないメンタルスキルに加えて、

ミスの後、相手に背を向け、気持ちを切り替える姿や、リターン前にセルフトーク(自分への声掛け)と同時に軽いガッツポーズを作るといったメンタルスキルを多用していることが伺えます。

技術や体力同様に、心理もトレーニングすることによって、向上させられるものです。

さらに詳しく知りたい方は!

下記セミナーにて、様々なアスリートの例をご紹介しながら、説明していきます。

「金メダリストに学ぶ!ポテンシャルを発揮するためのメンタルトレーニング」
日時:32日(土)18:15-20:45

ご参加お待ちしています(^^)

それでは!
ばん

2018年9月11日火曜日

全米優勝に見る大坂なおみ選手の3つの思考

こんにちは。メンタルコーチの伴です。


大坂なおみ選手がやってくれました!


日本人がグランドスラムに初めて参加してから102年…史上初の日本人グランドスラム勝利という偉業を成し遂げてくれました。



試合中に対戦相手のセレナ・ウィリアムスと審判のいざこざがあり、審判のジャッジの是非や男女差別の問題に注目が集まっていることが、もう残念でなりません。


大坂なおみ選手のプレーは問答無用ですごかったです。


スタッツ(統計)で見ても、エース数、ファーストサービス率、ブレークポイント奪取率、アンフォースドエラー数(安易なミス)、コートカバー距離…たくさんの指標でセレナを大きく上回っています。


それだけ、彼女は素晴らしいプレーをしていました。


初めての世界最大大会の決勝の舞台ですよ。


相手は、グランドスラム23勝(US Open 6勝)を誇るレジェンド、セレナ・ウィリアムス。


しかも、育休からの復帰後の初めてのタイトル奪取を掛けての決勝ということで、世論はセレナの劇的なカムバックを応援している中での戦い。


20歳(!)の大坂なおみ選手が、この観客を味方につけたレジェンド相手に、どうやって素晴らしいプレーが出来たのか。


この事実の裏にある彼女の努力にこそ、注目されてほしいです。


ということで、大坂なおみ選手のインタビューでのコメントを基に、彼女の取った心理的アプローチをご紹介します。


US Open決勝後のESPNでの大坂選手のインタビューで、インタビューワーがこう質問しました。


「あなたのパフォーマンスは本当に素晴らしかった。初めての決勝にもかかわらず、緊張している様子は全く見えなかった。どのようにしたの?」


大坂選手はそのインタビューの中で、


「この試合でも最も心がけたことは、"Composure(冷静さを保つこと)"だった (英文:I was trying to hold my composure. That was No.1 thing I worked on playing her)」


と述べています。


「初めてのグランドスラム決勝だからこそ、自分のテニスに集中できた。緊張に打ち負かされるべきじゃないと感じ、テニスに集中するようにした (英文:I was able to do that because it was my first Grand Slam final. I felt like I shouldn’t let myself be overcome by nerves or anything, and I should just really focus on playing tennis, because that’s what’s gotten me to this point)」

「今日の試合のことが頭から離れず、昨夜はとてもプレッシャーを感じていた (英文:Last night, I was very stressful. Kept thinking my match today.)」


全くプレッシャーを感じてないわけじゃないんですね。


緊張を感じていること認め、それに打ち負かされないように感情をコントロールすること


これにより、冷静さを保ち、素晴らしいプレーに繋げていた努力が伺えます。


では、具体的にどんな方法で、落ち着きを保とうとしたのか。


下記に3つご紹介します。


1.意識のコントロール


「自分が緊張感に包まれていたら、決勝に来るお客さんや対戦相手に対して、少し失礼だと思った。自分が出来るベストを出すために自分がしてきた練習を考えていた 。」
(英文:I thought it would be a bit of disrespectful for audience and opponent to circum to my nerve. So I just tried to think of my practice.)


と、述べているように、勝ち負けではなく、自分が行ってきた練習に意識を向けていました。


プレッシャーという感情は、期待と自信のギャップから生まれます。


勝ち負けは、相手や主審、天候、観客等々、自分を超えた要因に左右されるものであり、全て自分がコントロールできるものではありません。


どんな偉大なプレーヤーでも、勝率を100%にすることは出来ないわけです。


勝てるかどうかを憂うことは、期待と自信のギャップに意識を向けることであり、プレッシャーが増す結果に繋がります。


逆に、大坂選手のように、自分が積み上げてきたもの、持っているもの(特に特徴や強み)に意識を向けることは、自信の積み上げにつながり、結果として、プレッシャーを和らげ、冷静さを保つことに繋がります。


大坂選手は、試合中にもこのテクニックを使っていました。


セレナが審判に抗議をして、1ゲームのペナルティを取られたシーンがありましたが、この時、大坂選手は意図的に背を向けています。


「彼女はどのポイントからでも巻き返せる選手だと知っていたから、とにかく自分のことに集中しようとしていた」
(英文:I know that she can come back from any point, so I was just trying to focus on myself at that time.

最初のグランドスラムの決勝だったから、いっぱいいっぱいになるのが嫌だった。だから見ないようにした。」
(英文:Since it was my first grand slam, I didn’t want to be overwhelmed, I wasn’t looking.


自分の感情を乱す可能性のある情報を意識に入れない。


その後も集中を切らさず、素晴らしいプレーで優勝を決めました。


2.状況を予測し思考の整理をしておくこと


落ち着きを失う要因の一つに、"想定外"があります。


心を乱す可能性を含む事態を想定し、いかに対策を打っておけるか。


これが心を落ち着かせるカギであることは、想像しやすいでしょう。


「彼女は誰もが知るように最高の選手だし、US Openだから、観客が彼女を応援することは想像できた。だからメンタルを強く保ちたかった。」
(英文: I knew she is the greatest and we were in US Open and crowds would definitely be pulling for her. So I just wanted to stay mentally strong.


・幼いころからの憧れであるセレナ・ウィリアムスと戦うこと
・US Openの決勝で戦うということ
・会場全体が相手を応援する状況になりえること、など


それが自分にとって、何を意味するのか、そうなったときにどのように考え、何に意識を向けるのか…こういう整理を心理的準備と呼びます。


実際に大坂選手が取った対策の一つが、背を向けること。自分の心を揺さぶるような情報は遮断し、自分のことに集中するという対策に繋がったのでしょう。


それ以外にも、アイドルであるセレナと戦う上で、どのようにセレナではなく、テニスに集中したのか?という問いに対し、


「初めてのグランドスラムタイトルのチャンス、自分にできる全力を尽くしたかった。それこそが自分にできるセレナへの礼儀とも思っていた。 」
(英文:I was thinking this is a good opportunity to win first major so I just wanted to try as hard as I can. I sort of respect her in the way that I could)

「コートに立っているときは、違う自分のように感じる。コート上ではセレナファンではなく、ただ選手と対戦している一人のテニスプレーヤーという感覚。」
(英文:When I step onto the court I feel like a different person. I’m not a Serena fan, I’m just a tennis player playing another tennis player.)


大坂選手は、お父さんとの長い会話を通して、物事に対して一つ一つ思考の整理を進めて来たと言います。


自分の考えを整理して、試合に臨んでいるからこそ、決勝の舞台で緊張感に打ち負かされない姿を示せたのですね。


3."初めて"を減らす


初めての状況に不安を感じることは、人間の防衛本能であり、自然なことです。


ですから、心を落ち着かせるために、初めての状況を極力減らしておくことが効果的です。


今年3月のマイアミオープンで、大坂選手はセレナに勝利を挙げています。


「(マイアミオープンでのセレナとの試合が)間違いなく助けになったと思う。特に彼女のサーブが。一度戦っていたことが役に立った(英文:I think it did help definitely, especially on the serve. Playing her once was helpful)」


心理学用語で言うとAdaptability(適応力)、脳科学的に言えばPlasticity(可塑性)と言いますが、人間の脳は、刺激を受けるとその刺激に対して、適応しようとする機能が備わっています。


挑戦すればするほど、心や脳はパワーアップするようにデザインされています。


3月にセレナと戦い、勝った経験をしっかり振り返り、自分の戦術に繋げていたこと。


これが、心の落ち着きに好影響をもたらしていたことが容易に推測されます。


この適応力は、イメージトレーニングでも、機能させることが出来ます。


レモンや梅干しを食べている自分を想像してみてください。口の中に、じんわり唾液が湧いてきませんか?


イメージが鮮明なほどに、脳はイメージと現実の差を認識できないのです。


羽生結弦選手、内村航平選手も、イメージトレーニングを活用し、大舞台での実力発揮に繋げていますが、


緊張する場面で素晴らしいプレーをしている自分の姿を、鮮明に、実際の時間軸で、五感を交えながら、想像することで、脳は本当に経験していることと錯覚をします。


大坂選手はUS Open決勝でプレーすること自分の夢だったと語っています。


公言はしていませんが、もし、何千何万回も自分がその状況でプレーしている姿を鮮明にイメージしていたとしたら。


彼女の脳は、「ああいつものこの場所でのプレーね!」と防衛本能を解除し、それが、あの舞台での心の落ち着きに寄与していたかもしれません。




以上、冷静さを保つ3つのアプローチについて書いてきました。


言うが易しで、この意識のコントロールを実践し大舞台で、冷静さを保てていたことが、大坂選手の素晴らしさだと思います。


もっと、その素晴らしさに注目が集まってほしいなと思います。


次回は大坂選手のマインドセット(優先順位)について書きます。


本人曰く、今夏のスランプを経て、一番変わったことは"テニスを楽しむ"というマインドセットだと言っています。


"楽しむこと""実力発揮"の関係について迫ります。


それでは~
ばん

(参考)
US Open Press Conference
https://www.youtube.com/watch?v=AiHP603v4qo

ESPN Naomi Osaka interview after defeating Serena Williams in 2018 Grand Slam final
https://www.youtube.com/watch?v=dqgQqTgbm0g

2018年3月6日火曜日

オリンピック金メダリストの12個のメンタルスキル


こんにちは。メンタルコーチの伴です。



あと3日で平昌パラリンピック開催ですね。



平昌オリンピック同様、出場選手には自己ベストに向かって全力を尽くす姿を見せていただきたいですね!



さて、オリンピックという大舞台で金メダルを獲得する選手とそうでない選手のメンタルの違いって何だろう…と疑問に思われた方いらっしゃいますでしょうか?



今回はそんな方のための投稿です。

そんな疑問への回答を出すために、一肌脱いでくれた3人の研究者Gould, Dieffenbach & Moffett 氏が2002年に発表した研究をご紹介します。


この研究は1976-1998年のオリンピックで金メダルを取った10人のオリンピアン(種目は異なる)を対象に行なわれたものです。


対象の選手はもちろん、その選手の家族、コーチやスタッフにも複数の質問票やインタビューを行い、主観と客観的に金メダリストを分析しました。



その結果、10人の金メダリストが共有する12個の心理的要素が浮かび上がってきたのです。


その心理要素とは…



準備はいいですか?



さぁ、行きましょう。


1.不安を対処する能力

パフォーマンスに対する不安やパフォーマンス外の心配事は集中力をそぐ要因になります。これらをコントロールし、実力発揮する能力のことを指します。


2.自信

自信とは、得たい結果に対する自分への信頼感です。自信が高いとモチベーションにも繫がりますし、さらに高みに挑戦する原動力になります。


3.メンタルタフネス

ここでいうメンタルタフネスとは、忍耐強さ、やり抜く力、こころの回復力を指します。挑戦する人ほど、壁にぶつかっています。そんな時でも、素早く復活し、やり抜く力は当然重要ですよね。


4.スポーツインテリジェンス

競技に対する分析力、決断力、戦術理解度のことです。


5.意識のコントロール

集中力と言えばわかりやすいでしょうか。競技中に集中すべきこと、つまり、自身のタスクに意識を全投下できる能力です。


6.競争意欲

負けん気、積極性、諦めない心のことを指しています。


7.ハードワーク

言葉の通り、競技に対する高い意欲と練習熱心であることです。


8.目標設定と目標達成能力

諦めたくない目標をセットする能力と、その達成に向けた努力や明確な戦略を立てる能力です。


9.コーチャビリティ

初めて聞いた方も多いかもしれません。これは周りからのフィードバック(指示や建設的な批判も含む)から学ぼうとする姿勢のことを指します。上に行く人ほど、フィードバックを自分への批判と捉えずに、伸びしろであると捉える傾向にあります。


10.希望

少し8と重複しますが、ここで言う希望とは、目標達成への期待感と自分らしい目標達成方法を持っていることと定義づけられています。


11.楽観的思考

スランプやうまく行かない時でも、いつか良いことが起こると考えられる思考のことを指します。楽観的な思考は、困難にぶつかったとき、自信や粘り強さをもたらします。


12.完璧主義

完璧主義とは、高いスタンダードを持ち、妥協を許さないことで知られています。完璧主義には、不適応完璧主義と呼ばれ、無意味にミスを恐れたり、批判的になったり、自分を信じられなくなったりしてしまう側面もありますが、金メダルを取るオリンピアンたちは、完璧主義をハードワークに結び付けているのです。


以上、これらが金メダリストに共通する心理的要素でした。

これらにより金メダリストは競技力が高められ、かつ、その高い競技力が大舞台で発揮されるということなんですね。

しかしながら、最もお伝えしたいのは、金メダリストってすごいね~ということではありません。


これらの心理的要素はメンタルスキルと呼ばれます。

スキルと呼ばれるのは、持って生まれたものではなく、獲得できるものという意味合いが込められているからであります。


つまり、鍛えれば誰でも獲得できるということなのです。



トップアスリートは技術、体力を鍛える練習を行うように、心を鍛えるトレーニング(メンタルスキルトレーニング)にも時間を割いています。


その結果として、このようなメンタルスキルを獲得しています。


メンタルスキルの鍛え方…知りたくありませんか?





あれ。



318日にちょうど良いセミナーがあります(笑)



「オリンピアンから学ぶ一流になるためのメンタルスキル」 

日時:318日(日)1012時(開場9:45)

場所:大田区産業プラザPiO(京急蒲田駅前)

住所:大田区南蒲田1丁目20-20

参加費:3,000円


セミナーでは、平昌オリンピックの感動名場面を振り返りながら、オリンピアンが実行するメンタルスキルトレーニングをご紹介します。 


それらをみなさんの日常のニーズに実践応用していただくことを目的としております。


ご興味ある方は、FB上でご連絡いただくか下記にメールください(^^)


ban.seminar@gmail.com

お待ちしております。


それでは~

バン

2017年9月12日火曜日

“プレッシャーに強い人”になる方法

こんにちは。メンタルコーチの伴です。


今回はプレッシャーに関する投稿です。


“プレッシャーの掛かる大会で練習通りの力を出せない”、これは相談を受ける中で一番多い悩みかもしれません。


先日ある大学の部活の合宿に帯同させていただき、スポーツ心理学とは?メンタルトレーニングとは?という話をさせてもらう機会がありました。


競技の特徴もその理由でしょうが、競技者達の悩みの大多数がプレッシャー関連でした。


私自身も学生時代はテニスをしていた時、スポーツ心理学を学び始めたきっかけは、どうやってプレッシャー環境下で実力を発揮するか、というものでしたし、アスリートの親御さんから、息子が本番にとことん弱いタイプなのだが、どうしたらいいのかという相談を受けたこともあります。


“本番に弱いタイプ”、それを変わらない人間性だと捉えられている方が多いですが、科学的根拠を基に強く否定します。これは鍛錬できる“メンタルスキル(脳の使い方)”なのです。


その脳の使い方を習得する方法を書いていきます!


まずは、なぜプレッシャーが起こるのか、について考えましょう。


プレッシャーとは、ある外的要因によって引き起こされるストレスの一種です(Dosil, 2006)。


プレッシャーが発生する流れについて、Pearlin氏(1981)のストレスプロセスモデルを基に説明します。




脳はあるイベントに対し、自動的に2ステップで状況把握を行います。

(1)自身に利害関係があるかどうか。
(2)そのイベントにおいて得たい結果を得られるリソース(能力、スキル、サポート含む全ての資源)があるかどうか。


イベント=競技大会としましょう。


大会での結果がどうであれ自分には影響を及ぼさないと認識した場合、プレッシャーは出てきません。


逆に、結果が自身にとって重要と認識した場合は(2)の自身のリソースとの比較に移ります。


ここで、自身のリソースがあれば確実に望んでいる結果が手に入ると認識した場合、プレッシャー(ストレス反応)は出てきません。


逆に、望んでいる結果が手に入らない、もしくは、手に入るかわからないという認識をした時にプレッシャーが出てくるという流れです。


ちなみに「認識」という言葉を使っているのは、リソースの実態ではなく、リソースに対するセルフイメージ(自信)とストレス要因(ここでいう大会)との比較であるからです。


ただ、どの競技においても言えることですが、“結果”というのは競技者のプロセスによる副産物であり、コントロール出来ないものです。


従い、どれだけ自信が高くとも、結果に対する不確実性というものは残ります。結果を残したい。でも結果を残せるかわからない。そんな考えが生まれ、プレッシャーは出てくるというのは至極当然のことなのです。


プレッシャーを感じているということは、自身が目の前のイベントを重要視しているサインと捉えてあげることが第一歩です。


さて、プレッシャーの発生プロセスはわかりました。でもそれがどのようにパフォーマンスに影響を与えているのでしょうか。


結論から言うと、結果を残したいという思考が、本来集中しなくてはならないものへの集中力を阻害するからです(Boutcher, 2002; Magill, 1997)。


勝ちたいと思うと、「これは失敗できない」、「このポイント大事だぞ」なんて思考が出てきます。


本来集中しなくてはならないものとは、もちろん競技により異なりますが、良いパフォーマンスをするための技術的なポイントだったり、戦術を決定するための情報だったりします。


人の意識というのは限られた資源です。それを勝てるかな、勝てないかな、という思考に消費する間、集中しなくてはならないことを見逃してしまうということなのです。


では、どのようにプレッシャーをコントロールするかについて、2つのアプローチを紹介します。


(1)プレッシャー自体を軽減する
(2)意識をコントロールする方法を身に付ける


それぞれのアプローチに関し、2つずつスキルを書いていきますね。

(1)プレッシャー自体を軽減する

①自身の強みに目を向ける癖をつける

上記では、プレッシャーは自身に対するリソース(いわば自信)とストレス要因の比較で出てくる、また、結果はコントロール出来ないものなので、その不確実性がプレッシャーを生むという話をしました。


プレッシャーがなくなることはありませんが、自信が高いとプレッシャーという感情が軽減します。


前回の投稿で、日本人は不安を抱きやすい人種であるという研究を紹介しました。自分に厳しい人ほど、持っているものよりも、足りないものに意識が行きがち。悪いことではありませんが、自信を持ちにくいという話でした。


なので、あえて自身の持っているもの、強みは何かということを意識的に考えるようにする。その思考の繰り返しが、リソースに対する認識をポジティブに深め、結果プレッシャーを軽減することに繋がります。


②“なぜ”を考えることでプレッシャーを軽減する

プレッシャーは望む結果に対し、達成できるかどうかの不確実性により出てくるということでした。


この望む結果を、トロフィーや順位ではなく、自分の成長にリンクさせられるとプレッシャーは軽減されます。


私が通っていたデンバー大学大学院の教授がメントレを行っていたアルペンスキーヤーのお話です。


冬季オリンピックでのこと。一回目の滑走が終わりトップのため、2回目の滑走順が最後に割り振られました。


自身の前の滑走者が、素晴らしい滑りをし、さらに良い滑りをしないと金メダルを取れない状況で出番が回ってきました。


その状況にとても緊張を覚えたそうです。ただ、その状況で彼女が行ったメンタルスキルは、“なぜスキーをやっているか”を振り返ることでした。


「オリンピックで金メダルを取ることは、目標である。ただ、スキーをずっと続けている目的は、この大好きなスポーツをさらにうまくなりたいということだ。この緊張する場面で、いつもの滑りを出せる自分に挑戦する。そちらのほうが金メダルを取ることよりも大事だ。」


そう考えたそうです。人は結果に囚われがち。そしてそれがプレッシャーを肥大化させるのです。


なぜそれを始めたのかを考えることで、その目的を思い出すことで、プレッシャーを低減するスキルの素晴らしい例です。


そのスポーツを始めたころの想いを思い返してみてください。なぜそれを始めたのでしょうか。大会で優勝するためだったでしょうか。大会での結果は目標であり、目的ではないはずです(無論、練習時には、目標もやる気を引き起こすためには必要ですが)。


(2)意識をコントロールする方法を身に付ける

プレッシャー環境下で、実力発揮を阻害しているのは、集中すべきタスクから意識が離れてしまっているからだという話をしました。


①プロセスゴールを見極める

従い、集中すべきタスク何かを見極めることから始まります。そして、それは望む結果からのプロセスへの細分化で見い出せます(Weiberg, 2002; Gould, 2001)。


望む結果(アウトカムゴール)
   ↓
アウトカムゴールを達成するために必要なパフォーマンス(パフォーマンスゴール)
   ↓
パフォーマンスゴールを達成するために集中すべきタスク(プロセスゴール)


スキーを例にすると、下記になるかと思います。

アウトカム:〇〇秒でゴールする

パフォーマンス:納得のいく完璧なターンを最低5回する

プロセス:外側に体重を乗せる

※スキーは全くやったことがないので、内容の正当性よりも、やり方をご理解いただければと思います。コーチなどがいるようであれば、どのようなプロセスゴールを設定すべきかを相談して決めていくことをお勧めします。


〇〇秒でゴールすることを目指すわけですが、レース中に結果を考えることは、阻害要因でしかありません。


望む結果を得るために集中すべきプロセスゴールをレース前に決めておくことで、限られた資源である意識を有効に使うというアイディアです。


プロセスゴールは、戦略によっても異なると思います。会場のコンディションなどにより変わるでしょう。技術面、戦術面を考慮に入れたうえで、得たい結果に直結するプロセスゴールを設定することがキーです。


このプロセスゴールが多すぎても、パニックになる要因になります(Hardy, Jones & Gould, 1996)。ですので、集中できる範囲で決められることが重要です。


②セルフトーク(キューワード)

集中する対象が決まった後は、それにどのように意識を集中させるかということが大事になってきます。


最もよく使われているスキルにセルフトークというものがあります。


セルフトークとは、自分自身への声掛けであり、脳がポジティブなセルフトークで満たされるとパフォーマンスが発揮されやすくなるという研究が多数あります(Weinberg & Gould, 1999; Bunker, Williams & Zinsser, 1993)


ここでは、意識のコントロールのツールとして紹介します。


プレッシャーの掛か大会中には、冷静時に考えられることが、全く考える余裕がなくなることもしばしばあります。そんな時でも、プロセスゴールをリマインドできるキューワード化をすることが有効です(Zinsser, Bunker & Williams, 2001)。


外側に体重を乗せる、を「外」などのシンプルなキューワードとし、レース中に、「外、外」と自身に語り掛けることで、プロセスゴールに意識を向けることが出来るのです。



プレッシャー対策のための2つのアプローチ、(1)プレッシャー自体を軽減する、(2)意識をコントロールする方法を身に付ける、ご理解いただけましたでしょうか。


ご自身の競技(ビジネスパーソンの方はプレゼンなど)に当てはめて、考えてみることでさらに理解は進みますよ(^^)/


それでは~
バンヒロ