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2018年9月11日火曜日

全米優勝に見る大坂なおみ選手の3つの思考

こんにちは。メンタルコーチの伴です。


大坂なおみ選手がやってくれました!


日本人がグランドスラムに初めて参加してから102年…史上初の日本人グランドスラム勝利という偉業を成し遂げてくれました。



試合中に対戦相手のセレナ・ウィリアムスと審判のいざこざがあり、審判のジャッジの是非や男女差別の問題に注目が集まっていることが、もう残念でなりません。


大坂なおみ選手のプレーは問答無用ですごかったです。


スタッツ(統計)で見ても、エース数、ファーストサービス率、ブレークポイント奪取率、アンフォースドエラー数(安易なミス)、コートカバー距離…たくさんの指標でセレナを大きく上回っています。


それだけ、彼女は素晴らしいプレーをしていました。


初めての世界最大大会の決勝の舞台ですよ。


相手は、グランドスラム23勝(US Open 6勝)を誇るレジェンド、セレナ・ウィリアムス。


しかも、育休からの復帰後の初めてのタイトル奪取を掛けての決勝ということで、世論はセレナの劇的なカムバックを応援している中での戦い。


20歳(!)の大坂なおみ選手が、この観客を味方につけたレジェンド相手に、どうやって素晴らしいプレーが出来たのか。


この事実の裏にある彼女の努力にこそ、注目されてほしいです。


ということで、大坂なおみ選手のインタビューでのコメントを基に、彼女の取った心理的アプローチをご紹介します。


US Open決勝後のESPNでの大坂選手のインタビューで、インタビューワーがこう質問しました。


「あなたのパフォーマンスは本当に素晴らしかった。初めての決勝にもかかわらず、緊張している様子は全く見えなかった。どのようにしたの?」


大坂選手はそのインタビューの中で、


「この試合でも最も心がけたことは、"Composure(冷静さを保つこと)"だった (英文:I was trying to hold my composure. That was No.1 thing I worked on playing her)」


と述べています。


「初めてのグランドスラム決勝だからこそ、自分のテニスに集中できた。緊張に打ち負かされるべきじゃないと感じ、テニスに集中するようにした (英文:I was able to do that because it was my first Grand Slam final. I felt like I shouldn’t let myself be overcome by nerves or anything, and I should just really focus on playing tennis, because that’s what’s gotten me to this point)」

「今日の試合のことが頭から離れず、昨夜はとてもプレッシャーを感じていた (英文:Last night, I was very stressful. Kept thinking my match today.)」


全くプレッシャーを感じてないわけじゃないんですね。


緊張を感じていること認め、それに打ち負かされないように感情をコントロールすること


これにより、冷静さを保ち、素晴らしいプレーに繋げていた努力が伺えます。


では、具体的にどんな方法で、落ち着きを保とうとしたのか。


下記に3つご紹介します。


1.意識のコントロール


「自分が緊張感に包まれていたら、決勝に来るお客さんや対戦相手に対して、少し失礼だと思った。自分が出来るベストを出すために自分がしてきた練習を考えていた 。」
(英文:I thought it would be a bit of disrespectful for audience and opponent to circum to my nerve. So I just tried to think of my practice.)


と、述べているように、勝ち負けではなく、自分が行ってきた練習に意識を向けていました。


プレッシャーという感情は、期待と自信のギャップから生まれます。


勝ち負けは、相手や主審、天候、観客等々、自分を超えた要因に左右されるものであり、全て自分がコントロールできるものではありません。


どんな偉大なプレーヤーでも、勝率を100%にすることは出来ないわけです。


勝てるかどうかを憂うことは、期待と自信のギャップに意識を向けることであり、プレッシャーが増す結果に繋がります。


逆に、大坂選手のように、自分が積み上げてきたもの、持っているもの(特に特徴や強み)に意識を向けることは、自信の積み上げにつながり、結果として、プレッシャーを和らげ、冷静さを保つことに繋がります。


大坂選手は、試合中にもこのテクニックを使っていました。


セレナが審判に抗議をして、1ゲームのペナルティを取られたシーンがありましたが、この時、大坂選手は意図的に背を向けています。


「彼女はどのポイントからでも巻き返せる選手だと知っていたから、とにかく自分のことに集中しようとしていた」
(英文:I know that she can come back from any point, so I was just trying to focus on myself at that time.

最初のグランドスラムの決勝だったから、いっぱいいっぱいになるのが嫌だった。だから見ないようにした。」
(英文:Since it was my first grand slam, I didn’t want to be overwhelmed, I wasn’t looking.


自分の感情を乱す可能性のある情報を意識に入れない。


その後も集中を切らさず、素晴らしいプレーで優勝を決めました。


2.状況を予測し思考の整理をしておくこと


落ち着きを失う要因の一つに、"想定外"があります。


心を乱す可能性を含む事態を想定し、いかに対策を打っておけるか。


これが心を落ち着かせるカギであることは、想像しやすいでしょう。


「彼女は誰もが知るように最高の選手だし、US Openだから、観客が彼女を応援することは想像できた。だからメンタルを強く保ちたかった。」
(英文: I knew she is the greatest and we were in US Open and crowds would definitely be pulling for her. So I just wanted to stay mentally strong.


・幼いころからの憧れであるセレナ・ウィリアムスと戦うこと
・US Openの決勝で戦うということ
・会場全体が相手を応援する状況になりえること、など


それが自分にとって、何を意味するのか、そうなったときにどのように考え、何に意識を向けるのか…こういう整理を心理的準備と呼びます。


実際に大坂選手が取った対策の一つが、背を向けること。自分の心を揺さぶるような情報は遮断し、自分のことに集中するという対策に繋がったのでしょう。


それ以外にも、アイドルであるセレナと戦う上で、どのようにセレナではなく、テニスに集中したのか?という問いに対し、


「初めてのグランドスラムタイトルのチャンス、自分にできる全力を尽くしたかった。それこそが自分にできるセレナへの礼儀とも思っていた。 」
(英文:I was thinking this is a good opportunity to win first major so I just wanted to try as hard as I can. I sort of respect her in the way that I could)

「コートに立っているときは、違う自分のように感じる。コート上ではセレナファンではなく、ただ選手と対戦している一人のテニスプレーヤーという感覚。」
(英文:When I step onto the court I feel like a different person. I’m not a Serena fan, I’m just a tennis player playing another tennis player.)


大坂選手は、お父さんとの長い会話を通して、物事に対して一つ一つ思考の整理を進めて来たと言います。


自分の考えを整理して、試合に臨んでいるからこそ、決勝の舞台で緊張感に打ち負かされない姿を示せたのですね。


3."初めて"を減らす


初めての状況に不安を感じることは、人間の防衛本能であり、自然なことです。


ですから、心を落ち着かせるために、初めての状況を極力減らしておくことが効果的です。


今年3月のマイアミオープンで、大坂選手はセレナに勝利を挙げています。


「(マイアミオープンでのセレナとの試合が)間違いなく助けになったと思う。特に彼女のサーブが。一度戦っていたことが役に立った(英文:I think it did help definitely, especially on the serve. Playing her once was helpful)」


心理学用語で言うとAdaptability(適応力)、脳科学的に言えばPlasticity(可塑性)と言いますが、人間の脳は、刺激を受けるとその刺激に対して、適応しようとする機能が備わっています。


挑戦すればするほど、心や脳はパワーアップするようにデザインされています。


3月にセレナと戦い、勝った経験をしっかり振り返り、自分の戦術に繋げていたこと。


これが、心の落ち着きに好影響をもたらしていたことが容易に推測されます。


この適応力は、イメージトレーニングでも、機能させることが出来ます。


レモンや梅干しを食べている自分を想像してみてください。口の中に、じんわり唾液が湧いてきませんか?


イメージが鮮明なほどに、脳はイメージと現実の差を認識できないのです。


羽生結弦選手、内村航平選手も、イメージトレーニングを活用し、大舞台での実力発揮に繋げていますが、


緊張する場面で素晴らしいプレーをしている自分の姿を、鮮明に、実際の時間軸で、五感を交えながら、想像することで、脳は本当に経験していることと錯覚をします。


大坂選手はUS Open決勝でプレーすること自分の夢だったと語っています。


公言はしていませんが、もし、何千何万回も自分がその状況でプレーしている姿を鮮明にイメージしていたとしたら。


彼女の脳は、「ああいつものこの場所でのプレーね!」と防衛本能を解除し、それが、あの舞台での心の落ち着きに寄与していたかもしれません。




以上、冷静さを保つ3つのアプローチについて書いてきました。


言うが易しで、この意識のコントロールを実践し大舞台で、冷静さを保てていたことが、大坂選手の素晴らしさだと思います。


もっと、その素晴らしさに注目が集まってほしいなと思います。


次回は大坂選手のマインドセット(優先順位)について書きます。


本人曰く、今夏のスランプを経て、一番変わったことは"テニスを楽しむ"というマインドセットだと言っています。


"楽しむこと""実力発揮"の関係について迫ります。


それでは~
ばん

(参考)
US Open Press Conference
https://www.youtube.com/watch?v=AiHP603v4qo

ESPN Naomi Osaka interview after defeating Serena Williams in 2018 Grand Slam final
https://www.youtube.com/watch?v=dqgQqTgbm0g

2017年9月12日火曜日

“プレッシャーに強い人”になる方法

こんにちは。メンタルコーチの伴です。


今回はプレッシャーに関する投稿です。


“プレッシャーの掛かる大会で練習通りの力を出せない”、これは相談を受ける中で一番多い悩みかもしれません。


先日ある大学の部活の合宿に帯同させていただき、スポーツ心理学とは?メンタルトレーニングとは?という話をさせてもらう機会がありました。


競技の特徴もその理由でしょうが、競技者達の悩みの大多数がプレッシャー関連でした。


私自身も学生時代はテニスをしていた時、スポーツ心理学を学び始めたきっかけは、どうやってプレッシャー環境下で実力を発揮するか、というものでしたし、アスリートの親御さんから、息子が本番にとことん弱いタイプなのだが、どうしたらいいのかという相談を受けたこともあります。


“本番に弱いタイプ”、それを変わらない人間性だと捉えられている方が多いですが、科学的根拠を基に強く否定します。これは鍛錬できる“メンタルスキル(脳の使い方)”なのです。


その脳の使い方を習得する方法を書いていきます!


まずは、なぜプレッシャーが起こるのか、について考えましょう。


プレッシャーとは、ある外的要因によって引き起こされるストレスの一種です(Dosil, 2006)。


プレッシャーが発生する流れについて、Pearlin氏(1981)のストレスプロセスモデルを基に説明します。




脳はあるイベントに対し、自動的に2ステップで状況把握を行います。

(1)自身に利害関係があるかどうか。
(2)そのイベントにおいて得たい結果を得られるリソース(能力、スキル、サポート含む全ての資源)があるかどうか。


イベント=競技大会としましょう。


大会での結果がどうであれ自分には影響を及ぼさないと認識した場合、プレッシャーは出てきません。


逆に、結果が自身にとって重要と認識した場合は(2)の自身のリソースとの比較に移ります。


ここで、自身のリソースがあれば確実に望んでいる結果が手に入ると認識した場合、プレッシャー(ストレス反応)は出てきません。


逆に、望んでいる結果が手に入らない、もしくは、手に入るかわからないという認識をした時にプレッシャーが出てくるという流れです。


ちなみに「認識」という言葉を使っているのは、リソースの実態ではなく、リソースに対するセルフイメージ(自信)とストレス要因(ここでいう大会)との比較であるからです。


ただ、どの競技においても言えることですが、“結果”というのは競技者のプロセスによる副産物であり、コントロール出来ないものです。


従い、どれだけ自信が高くとも、結果に対する不確実性というものは残ります。結果を残したい。でも結果を残せるかわからない。そんな考えが生まれ、プレッシャーは出てくるというのは至極当然のことなのです。


プレッシャーを感じているということは、自身が目の前のイベントを重要視しているサインと捉えてあげることが第一歩です。


さて、プレッシャーの発生プロセスはわかりました。でもそれがどのようにパフォーマンスに影響を与えているのでしょうか。


結論から言うと、結果を残したいという思考が、本来集中しなくてはならないものへの集中力を阻害するからです(Boutcher, 2002; Magill, 1997)。


勝ちたいと思うと、「これは失敗できない」、「このポイント大事だぞ」なんて思考が出てきます。


本来集中しなくてはならないものとは、もちろん競技により異なりますが、良いパフォーマンスをするための技術的なポイントだったり、戦術を決定するための情報だったりします。


人の意識というのは限られた資源です。それを勝てるかな、勝てないかな、という思考に消費する間、集中しなくてはならないことを見逃してしまうということなのです。


では、どのようにプレッシャーをコントロールするかについて、2つのアプローチを紹介します。


(1)プレッシャー自体を軽減する
(2)意識をコントロールする方法を身に付ける


それぞれのアプローチに関し、2つずつスキルを書いていきますね。

(1)プレッシャー自体を軽減する

①自身の強みに目を向ける癖をつける

上記では、プレッシャーは自身に対するリソース(いわば自信)とストレス要因の比較で出てくる、また、結果はコントロール出来ないものなので、その不確実性がプレッシャーを生むという話をしました。


プレッシャーがなくなることはありませんが、自信が高いとプレッシャーという感情が軽減します。


前回の投稿で、日本人は不安を抱きやすい人種であるという研究を紹介しました。自分に厳しい人ほど、持っているものよりも、足りないものに意識が行きがち。悪いことではありませんが、自信を持ちにくいという話でした。


なので、あえて自身の持っているもの、強みは何かということを意識的に考えるようにする。その思考の繰り返しが、リソースに対する認識をポジティブに深め、結果プレッシャーを軽減することに繋がります。


②“なぜ”を考えることでプレッシャーを軽減する

プレッシャーは望む結果に対し、達成できるかどうかの不確実性により出てくるということでした。


この望む結果を、トロフィーや順位ではなく、自分の成長にリンクさせられるとプレッシャーは軽減されます。


私が通っていたデンバー大学大学院の教授がメントレを行っていたアルペンスキーヤーのお話です。


冬季オリンピックでのこと。一回目の滑走が終わりトップのため、2回目の滑走順が最後に割り振られました。


自身の前の滑走者が、素晴らしい滑りをし、さらに良い滑りをしないと金メダルを取れない状況で出番が回ってきました。


その状況にとても緊張を覚えたそうです。ただ、その状況で彼女が行ったメンタルスキルは、“なぜスキーをやっているか”を振り返ることでした。


「オリンピックで金メダルを取ることは、目標である。ただ、スキーをずっと続けている目的は、この大好きなスポーツをさらにうまくなりたいということだ。この緊張する場面で、いつもの滑りを出せる自分に挑戦する。そちらのほうが金メダルを取ることよりも大事だ。」


そう考えたそうです。人は結果に囚われがち。そしてそれがプレッシャーを肥大化させるのです。


なぜそれを始めたのかを考えることで、その目的を思い出すことで、プレッシャーを低減するスキルの素晴らしい例です。


そのスポーツを始めたころの想いを思い返してみてください。なぜそれを始めたのでしょうか。大会で優勝するためだったでしょうか。大会での結果は目標であり、目的ではないはずです(無論、練習時には、目標もやる気を引き起こすためには必要ですが)。


(2)意識をコントロールする方法を身に付ける

プレッシャー環境下で、実力発揮を阻害しているのは、集中すべきタスクから意識が離れてしまっているからだという話をしました。


①プロセスゴールを見極める

従い、集中すべきタスク何かを見極めることから始まります。そして、それは望む結果からのプロセスへの細分化で見い出せます(Weiberg, 2002; Gould, 2001)。


望む結果(アウトカムゴール)
   ↓
アウトカムゴールを達成するために必要なパフォーマンス(パフォーマンスゴール)
   ↓
パフォーマンスゴールを達成するために集中すべきタスク(プロセスゴール)


スキーを例にすると、下記になるかと思います。

アウトカム:〇〇秒でゴールする

パフォーマンス:納得のいく完璧なターンを最低5回する

プロセス:外側に体重を乗せる

※スキーは全くやったことがないので、内容の正当性よりも、やり方をご理解いただければと思います。コーチなどがいるようであれば、どのようなプロセスゴールを設定すべきかを相談して決めていくことをお勧めします。


〇〇秒でゴールすることを目指すわけですが、レース中に結果を考えることは、阻害要因でしかありません。


望む結果を得るために集中すべきプロセスゴールをレース前に決めておくことで、限られた資源である意識を有効に使うというアイディアです。


プロセスゴールは、戦略によっても異なると思います。会場のコンディションなどにより変わるでしょう。技術面、戦術面を考慮に入れたうえで、得たい結果に直結するプロセスゴールを設定することがキーです。


このプロセスゴールが多すぎても、パニックになる要因になります(Hardy, Jones & Gould, 1996)。ですので、集中できる範囲で決められることが重要です。


②セルフトーク(キューワード)

集中する対象が決まった後は、それにどのように意識を集中させるかということが大事になってきます。


最もよく使われているスキルにセルフトークというものがあります。


セルフトークとは、自分自身への声掛けであり、脳がポジティブなセルフトークで満たされるとパフォーマンスが発揮されやすくなるという研究が多数あります(Weinberg & Gould, 1999; Bunker, Williams & Zinsser, 1993)


ここでは、意識のコントロールのツールとして紹介します。


プレッシャーの掛か大会中には、冷静時に考えられることが、全く考える余裕がなくなることもしばしばあります。そんな時でも、プロセスゴールをリマインドできるキューワード化をすることが有効です(Zinsser, Bunker & Williams, 2001)。


外側に体重を乗せる、を「外」などのシンプルなキューワードとし、レース中に、「外、外」と自身に語り掛けることで、プロセスゴールに意識を向けることが出来るのです。



プレッシャー対策のための2つのアプローチ、(1)プレッシャー自体を軽減する、(2)意識をコントロールする方法を身に付ける、ご理解いただけましたでしょうか。


ご自身の競技(ビジネスパーソンの方はプレゼンなど)に当てはめて、考えてみることでさらに理解は進みますよ(^^)/


それでは~
バンヒロ