2018年9月11日火曜日

全米優勝に見る大坂なおみ選手の3つの思考

こんにちは。メンタルコーチの伴です。


大坂なおみ選手がやってくれました!


日本人がグランドスラムに初めて参加してから102年…史上初の日本人グランドスラム勝利という偉業を成し遂げてくれました。



試合中に対戦相手のセレナ・ウィリアムスと審判のいざこざがあり、審判のジャッジの是非や男女差別の問題に注目が集まっていることが、もう残念でなりません。


大坂なおみ選手のプレーは問答無用ですごかったです。


スタッツ(統計)で見ても、エース数、ファーストサービス率、ブレークポイント奪取率、アンフォースドエラー数(安易なミス)、コートカバー距離…たくさんの指標でセレナを大きく上回っています。


それだけ、彼女は素晴らしいプレーをしていました。


初めての世界最大大会の決勝の舞台ですよ。


相手は、グランドスラム23勝(US Open 6勝)を誇るレジェンド、セレナ・ウィリアムス。


しかも、育休からの復帰後の初めてのタイトル奪取を掛けての決勝ということで、世論はセレナの劇的なカムバックを応援している中での戦い。


20歳(!)の大坂なおみ選手が、この観客を味方につけたレジェンド相手に、どうやって素晴らしいプレーが出来たのか。


この事実の裏にある彼女の努力にこそ、注目されてほしいです。


ということで、大坂なおみ選手のインタビューでのコメントを基に、彼女の取った心理的アプローチをご紹介します。


US Open決勝後のESPNでの大坂選手のインタビューで、インタビューワーがこう質問しました。


「あなたのパフォーマンスは本当に素晴らしかった。初めての決勝にもかかわらず、緊張している様子は全く見えなかった。どのようにしたの?」


大坂選手はそのインタビューの中で、


「この試合でも最も心がけたことは、"Composure(冷静さを保つこと)"だった (英文:I was trying to hold my composure. That was No.1 thing I worked on playing her)」


と述べています。


「初めてのグランドスラム決勝だからこそ、自分のテニスに集中できた。緊張に打ち負かされるべきじゃないと感じ、テニスに集中するようにした (英文:I was able to do that because it was my first Grand Slam final. I felt like I shouldn’t let myself be overcome by nerves or anything, and I should just really focus on playing tennis, because that’s what’s gotten me to this point)」

「今日の試合のことが頭から離れず、昨夜はとてもプレッシャーを感じていた (英文:Last night, I was very stressful. Kept thinking my match today.)」


全くプレッシャーを感じてないわけじゃないんですね。


緊張を感じていること認め、それに打ち負かされないように感情をコントロールすること


これにより、冷静さを保ち、素晴らしいプレーに繋げていた努力が伺えます。


では、具体的にどんな方法で、落ち着きを保とうとしたのか。


下記に3つご紹介します。


1.意識のコントロール


「自分が緊張感に包まれていたら、決勝に来るお客さんや対戦相手に対して、少し失礼だと思った。自分が出来るベストを出すために自分がしてきた練習を考えていた 。」
(英文:I thought it would be a bit of disrespectful for audience and opponent to circum to my nerve. So I just tried to think of my practice.)


と、述べているように、勝ち負けではなく、自分が行ってきた練習に意識を向けていました。


プレッシャーという感情は、期待と自信のギャップから生まれます。


勝ち負けは、相手や主審、天候、観客等々、自分を超えた要因に左右されるものであり、全て自分がコントロールできるものではありません。


どんな偉大なプレーヤーでも、勝率を100%にすることは出来ないわけです。


勝てるかどうかを憂うことは、期待と自信のギャップに意識を向けることであり、プレッシャーが増す結果に繋がります。


逆に、大坂選手のように、自分が積み上げてきたもの、持っているもの(特に特徴や強み)に意識を向けることは、自信の積み上げにつながり、結果として、プレッシャーを和らげ、冷静さを保つことに繋がります。


大坂選手は、試合中にもこのテクニックを使っていました。


セレナが審判に抗議をして、1ゲームのペナルティを取られたシーンがありましたが、この時、大坂選手は意図的に背を向けています。


「彼女はどのポイントからでも巻き返せる選手だと知っていたから、とにかく自分のことに集中しようとしていた」
(英文:I know that she can come back from any point, so I was just trying to focus on myself at that time.

最初のグランドスラムの決勝だったから、いっぱいいっぱいになるのが嫌だった。だから見ないようにした。」
(英文:Since it was my first grand slam, I didn’t want to be overwhelmed, I wasn’t looking.


自分の感情を乱す可能性のある情報を意識に入れない。


その後も集中を切らさず、素晴らしいプレーで優勝を決めました。


2.状況を予測し思考の整理をしておくこと


落ち着きを失う要因の一つに、"想定外"があります。


心を乱す可能性を含む事態を想定し、いかに対策を打っておけるか。


これが心を落ち着かせるカギであることは、想像しやすいでしょう。


「彼女は誰もが知るように最高の選手だし、US Openだから、観客が彼女を応援することは想像できた。だからメンタルを強く保ちたかった。」
(英文: I knew she is the greatest and we were in US Open and crowds would definitely be pulling for her. So I just wanted to stay mentally strong.


・幼いころからの憧れであるセレナ・ウィリアムスと戦うこと
・US Openの決勝で戦うということ
・会場全体が相手を応援する状況になりえること、など


それが自分にとって、何を意味するのか、そうなったときにどのように考え、何に意識を向けるのか…こういう整理を心理的準備と呼びます。


実際に大坂選手が取った対策の一つが、背を向けること。自分の心を揺さぶるような情報は遮断し、自分のことに集中するという対策に繋がったのでしょう。


それ以外にも、アイドルであるセレナと戦う上で、どのようにセレナではなく、テニスに集中したのか?という問いに対し、


「初めてのグランドスラムタイトルのチャンス、自分にできる全力を尽くしたかった。それこそが自分にできるセレナへの礼儀とも思っていた。 」
(英文:I was thinking this is a good opportunity to win first major so I just wanted to try as hard as I can. I sort of respect her in the way that I could)

「コートに立っているときは、違う自分のように感じる。コート上ではセレナファンではなく、ただ選手と対戦している一人のテニスプレーヤーという感覚。」
(英文:When I step onto the court I feel like a different person. I’m not a Serena fan, I’m just a tennis player playing another tennis player.)


大坂選手は、お父さんとの長い会話を通して、物事に対して一つ一つ思考の整理を進めて来たと言います。


自分の考えを整理して、試合に臨んでいるからこそ、決勝の舞台で緊張感に打ち負かされない姿を示せたのですね。


3."初めて"を減らす


初めての状況に不安を感じることは、人間の防衛本能であり、自然なことです。


ですから、心を落ち着かせるために、初めての状況を極力減らしておくことが効果的です。


今年3月のマイアミオープンで、大坂選手はセレナに勝利を挙げています。


「(マイアミオープンでのセレナとの試合が)間違いなく助けになったと思う。特に彼女のサーブが。一度戦っていたことが役に立った(英文:I think it did help definitely, especially on the serve. Playing her once was helpful)」


心理学用語で言うとAdaptability(適応力)、脳科学的に言えばPlasticity(可塑性)と言いますが、人間の脳は、刺激を受けるとその刺激に対して、適応しようとする機能が備わっています。


挑戦すればするほど、心や脳はパワーアップするようにデザインされています。


3月にセレナと戦い、勝った経験をしっかり振り返り、自分の戦術に繋げていたこと。


これが、心の落ち着きに好影響をもたらしていたことが容易に推測されます。


この適応力は、イメージトレーニングでも、機能させることが出来ます。


レモンや梅干しを食べている自分を想像してみてください。口の中に、じんわり唾液が湧いてきませんか?


イメージが鮮明なほどに、脳はイメージと現実の差を認識できないのです。


羽生結弦選手、内村航平選手も、イメージトレーニングを活用し、大舞台での実力発揮に繋げていますが、


緊張する場面で素晴らしいプレーをしている自分の姿を、鮮明に、実際の時間軸で、五感を交えながら、想像することで、脳は本当に経験していることと錯覚をします。


大坂選手はUS Open決勝でプレーすること自分の夢だったと語っています。


公言はしていませんが、もし、何千何万回も自分がその状況でプレーしている姿を鮮明にイメージしていたとしたら。


彼女の脳は、「ああいつものこの場所でのプレーね!」と防衛本能を解除し、それが、あの舞台での心の落ち着きに寄与していたかもしれません。




以上、冷静さを保つ3つのアプローチについて書いてきました。


言うが易しで、この意識のコントロールを実践し大舞台で、冷静さを保てていたことが、大坂選手の素晴らしさだと思います。


もっと、その素晴らしさに注目が集まってほしいなと思います。


次回は大坂選手のマインドセット(優先順位)について書きます。


本人曰く、今夏のスランプを経て、一番変わったことは"テニスを楽しむ"というマインドセットだと言っています。


"楽しむこと""実力発揮"の関係について迫ります。


それでは~
ばん

(参考)
US Open Press Conference
https://www.youtube.com/watch?v=AiHP603v4qo

ESPN Naomi Osaka interview after defeating Serena Williams in 2018 Grand Slam final
https://www.youtube.com/watch?v=dqgQqTgbm0g

2018年9月6日木曜日

子どもの運動能力の成長を促す5つのアクション

こんにちは。メンタルコーチの伴です。


前回のブログでは、子どもの運動能力向上には全身の調整能力を高める必要であり、それは多様な運動経験によって培われるという話をしました。

今回は 「子どもの運動能力の成長を促す5つのアクション」をサクッとご紹介します。

1.自発性を尊重する

好きこそものの上手なれ。これはどうやら本質に近いのかもしれません。

モチベーションのメカニズムについて100年以上研究が進められてきましたが、好きだからやるという内発的モチベーションに勝る意欲の源泉は発見されていません。

子どもが興味を示したことをとことんやらせてあげることが、運動機会を増やすことに繋がります。

6歳頃までに脳や脊髄などの神経系が急激に発達します(下図参照)。




この時期は、特に全身の調整力が飛躍的に向上させるチャンス

この前、うちの子どもが変な踊りしてるんだけど、どうすべき?と聞かれましたが(笑)、

どんどん変な(=独創的な)踊りさせちゃってください。



2.同じ運動を続けない

子どもの意識は移ろいやすいですよね?まだ認知能力が発達の途中で、同じことにずっと集中していられません。

もし何か特定の運動をやっていた場合、10-15分で運動に変化を与える必要があります。

これ大人も同じで、例えばクリスティアーノ・ロナウドも10分おきにドリルを変えるそうです。

興味を保ち、集中力を持続させる術ですね。



3.遊具は多すぎても良くない

幼稚園の遊具の数と園児の運動能力の因果関係を調べた研究があります。

①22個以上
②17-21個
③16個以下

どのグループの幼稚園の園児が最も運動能力が高かったと思いますか?

正解は②でした。

多ければそれだけ、運動の多様性が増えそうですよね。

遊具が多すぎると使用用途通りの使い方しかされず、独創的な使い方をするまで発展していきにくいという点が指摘されています。

独創的に使うことで、そんな動きするか!という多様な運動が増える。それが、運動能力の発達に繋がることが報告がされています。

逆に遊具が少なくても、全ての遊具への興味が満たされてしまうと、遊びや運動機会の促進に繋がらないのです。

ご家庭に当てはめて考えれば、遊具の数を何個にするかにこだわるというよりは、子どもの好奇心を掻き立てるに充分な数を用意する、ただし、与えすぎないラインを探ることが大事なのでしょうね。


4.一緒に遊ぶ

保育士の運動参加の回数と子どもの運動能力の関係を調査した研究があります。

保育士が運動参加する回数が多いほど、子どもの運動能力が高いという結果がでました。

子ども、特に幼児期(1-6歳)の子は、親や保育士など心を許した大人と一緒に遊ぶことが大好きです。

大人が一緒になって遊ぶと喜んで遊ぶ。それが、運動能力向上にもつながるのですね。

また、難しい運動ほど、一緒に挑戦することが大事です。

出来ないと感じたことでも、大人が楽しげにやっている姿を見せることで、チャレンジする意欲になります。


5.結果ではなくアクションを褒めてあげる

子どもは褒められることで、その褒められたことを再現しようとします。

挑戦したことを褒められれば、さらに挑戦しようとします。

気を付けなくてはならないのは、頭の良さや能力を褒められると、もっと褒められようと、能力の高さを示せることをやろうとします。

つまり、難しいことに挑戦しなくなります。

勉強に関する研究ですが、Growth mindsetで有名なDweck博士の小学校5年生を対象にした研究を紹介します。

最初に全ての生徒に、難易度中の問題を解いてもらいました。その後、全ての生徒たちを下記の3つのグループに分けて、それぞれのフィードバックを与えました。

①能力の高さを褒める 例:この高得点を取るということは、君はとっても頭いいね!
②結果への驚きを伝える 例:これは高得点だね!
③努力を褒める 例:この高得点を取るということは、とても努力したんだね!

その後、誰も高得点を取れないような難しい問題を解いてもらったあとに、最後にまた難易度中の問題を解いてもらい、その得点を計測しました。

最も高得点を出したのは、③でした。2番目の②に比べ30%の差でした。

逆に最も低い点数だったのが、①でした。②に比べ30%も低い結果です。

子どもたちに何が起こったのでしょうか。

①グループの子は、③の子に比べ、褒められた後に、次のテストへの点数への期待感が高くなったはずです。

しかし、次にやったテストは非常に難しく、③の子よりも落胆したことが推測されます。

それにより、問題を解くというタスクへの意欲が薄れ、初回の問題と同レベルの難易度だったにも関わらず、パフォーマンスが下がった子が多かったと整理されています。

この影響をアンダーマイニング効果と呼びます。

好きでやっていたことでも、結果を褒め続けられることで、褒められることが目的になり、褒められないとわかった時点で、その行動をやめてしまいます。

運動への意欲を奪わないために、結果ではなく、その行動や努力を褒めてあげることをお勧めします。


5つのアクションを書いてきました。科学というのは、これが最も多くの人に当てはまるよね、という根拠に基づいた指針です。

全ての人に当てはまるということではありませんが、直感、経験論よりも多くの人に当てはまる可能性が高いという代物です。

ご参考になれば。


ちなみに、


9月29日14時@代々木上原で、子育てに関する4人のプロにお集まりいただき、下記4つの観点からより良い子育てを考えていただく最大20人の小規模カンファレンスを行います。

①身体の発達
②栄養と食育
③子育ての実践
④子育ての心理学

第一部(14-17時)は勉強会。
第二部(17-20時)は交流会。

飲食代込みで、なんと入場料3000円!


ご興味ある方は、下記までお問い合わせください。

ban.seminar@gmail.com


それでは~
ばん

2018年5月22日火曜日

大谷選手のような運動能力の高い子どもの育て方

こんにちは。メンタルコーチの伴です。


大谷選手の活躍すばらしいですね!


5年ほど前のインタビューでの本人の言葉「期待は応えるものではなく、超えるもの」の通り、連日驚かせてくれています。


大谷選手といえば、打つ、投げる、走る…全てにおいて超一流の選手ですが、どうすれば大谷選手のように運動能力を育むことが出来るのでしょうか。


体格、運動センス(スキル獲得のスピード)など、確かに持って生まれたものの影響というものはあるのですが、後天的に育まれる運動能力も先天的な土台以上に重要だという研究も多々あります。


(1)運動能力を高めるために必要なこと(理論編)、(2)運動能力を促進する6つのポイント(実践編)、の2つに分けて書いていきます。


そもそも“運動能力”とは、走る、跳ぶ、投げる、姿勢を保つ、捕るなどの能力のことを指しますが、多くの人が運動能力を高めるためには、体操や器械運動など特定の運動に特化したほうが良いと考えています。


実はそうではありません。


幼稚園/保育園で運動指導を行っている回数(一週間)と子どもの運動能力の因果関係を測った研究があります。


幼稚園/保育園を下記のようなグループに分け、それぞれのグループの園にいる子ども達の運動能力(25m走、立ち幅跳び、ボール投げ、体支持持続時間、両足連続跳び越し、捕球の総合評価)を比較しました。


①運動指導が週0回の園
②週16回の園
③週7回の園

※①の園は運動指導を行っていないだけで、子どもたちが運動していないというわけではありません。自由に遊んでいる(運動している)時間も当然あります。


そりゃ③でしょと思う方も多いでしょうが、予想に反して、運動能力が高かったのは、①、②、③の順でした(①の子どもたちが一番運動能力が高い)。


なぜでしょうか?


このような研究は複数あるのですが、一貫して指摘されているのは、特定の運動の上達を目指した指導は、動きのパターンが固定されてしまいがちになり、運動能力向上には繋がりにくいことです(特定の動きの質=技術は、当然向上されていきます)。


乳幼児期(06歳)、児童期(712歳)は神経系(脳、脊髄、中枢神経、末梢神経)が急激に発達する時期(5歳で成人の8割程度まで発達)であり、それに伴って“全身の調整能力”(=体を思い通りに動かす能力)が培われていきます。


この能力を獲得するために必要なことは、ずばり“多様な運動経験(動き)”なのです。


①のグループに属する子どもたちは、特定されていない様々な遊びを通して、自発的に多様な動きを経験していきます。


これにより知らず知らずのうちに、調整力を身に付け、そしてそれが、運動能力に繋がっていくのです。
(※運動指導が必要ないということではありません。そもそも運動の機会がない子どもにとっては、運動の機会創出になるでしょうし、指導者付き添いの元、安全に運動が出来るメリットもあります。体操やフィギュアスケートなど、小さい頃から積み重ねられた技術が差を生むスポーツの場合は、早い段階からの集中指導が望ましいと言われています。)


アメリカでは、中学校または高校までは(学校によって異なる)極力多数のスポーツをやらせるサンプリングという文化があります。


私がメンタルトレーニング指導を行っていたコロラド州デンバーの高校でも、春夏秋冬のシーズンによって部活が変わるシステムが採用されていました。


多様な運動経験により、運動能力を高める狙いがあるのだそうですが、たまにプロスポーツ選手が引退後、別種目のプロ選手になる(マイケルジョーダンもバスケ引退後、プロ野球に挑戦した)なんてことが起こるのも、こういう文化から来ているのかもしれませんね。


多様な運動経験を増やす子育て実践方法は次回のブログで書きます。


最後に運動がもたらす子どもの性格への影響について、紹介して終わりにしたいと思います。


結論から言うと、運動を多く行っている子どもは、運動への積極性を高める(運動好きになる)のみならず、自己実現意欲や向社会的行動(反社会的行動の反対語で、見返りを期待せずに他者の役に立つような行動のこと)が増加することが確認されています。


なぜか? 


スポーツを通じて、目標に向かって突き進む経験(ゴールに向かって筋道を立てる経験、プランを実行する経験、挫折や達成経験など)により、その後の人生においても自己実現意欲が高まる傾向にあるのです。


さらに、目標に向かって走る過程で、自己主張ばかりではなく、相手の立場に立って物事を見る視点やコミュニケーション能力を獲得していくこと。また、チームとして何かを成し遂げた時の喜びを通して、他者の喜びのために行う行動がどれだけ自分の喜びに繋がるのかを体感していきます。それにより、人生を通じて向社会的行動が増加することが確認されています。


しかーし、そのスポーツが違う目的のために使われることもしばしばあります。


「何をしてでも勝て!」という勝利至上主義の考え方は、上述のような人格形成の妨げになる可能性があります。



無論、スポーツにおいて勝ち負けは重要です。


勝ちを目指して全力を尽くすことで、成長が促されるからです。


ただし、勝ちを目的にしてしまうと、選手たちの意識は、技術・体力・心理・知力の向上(プロセス)ではなく、結果に集中され、成長のヒントが見逃されてしまうからです。
(成長とは、なぜうまくいったか、なぜうまく行かなかったかの追及・改善により促されます。勝利至上主義のチームでは、負け=失敗となり、選手としては認めたくない現実と捉えられがちになってしまうのです。負け=成長の糧であるにもかかわらず。)


特に著しく発達する小中高校生には、成長が主眼である環境で自分の可能性に挑戦していってほしいなと願います。


話がそれてしまいましたが、実践方法にご興味あるかたは、次回のブログ「子どもの運動能力の成長を促す5つのアクション」も是非読んでくださいね。


それでは~
ばん

2018年3月6日火曜日

オリンピック金メダリストの12個のメンタルスキル


こんにちは。メンタルコーチの伴です。



あと3日で平昌パラリンピック開催ですね。



平昌オリンピック同様、出場選手には自己ベストに向かって全力を尽くす姿を見せていただきたいですね!



さて、オリンピックという大舞台で金メダルを獲得する選手とそうでない選手のメンタルの違いって何だろう…と疑問に思われた方いらっしゃいますでしょうか?



今回はそんな方のための投稿です。

そんな疑問への回答を出すために、一肌脱いでくれた3人の研究者Gould, Dieffenbach & Moffett 氏が2002年に発表した研究をご紹介します。


この研究は1976-1998年のオリンピックで金メダルを取った10人のオリンピアン(種目は異なる)を対象に行なわれたものです。


対象の選手はもちろん、その選手の家族、コーチやスタッフにも複数の質問票やインタビューを行い、主観と客観的に金メダリストを分析しました。



その結果、10人の金メダリストが共有する12個の心理的要素が浮かび上がってきたのです。


その心理要素とは…



準備はいいですか?



さぁ、行きましょう。


1.不安を対処する能力

パフォーマンスに対する不安やパフォーマンス外の心配事は集中力をそぐ要因になります。これらをコントロールし、実力発揮する能力のことを指します。


2.自信

自信とは、得たい結果に対する自分への信頼感です。自信が高いとモチベーションにも繫がりますし、さらに高みに挑戦する原動力になります。


3.メンタルタフネス

ここでいうメンタルタフネスとは、忍耐強さ、やり抜く力、こころの回復力を指します。挑戦する人ほど、壁にぶつかっています。そんな時でも、素早く復活し、やり抜く力は当然重要ですよね。


4.スポーツインテリジェンス

競技に対する分析力、決断力、戦術理解度のことです。


5.意識のコントロール

集中力と言えばわかりやすいでしょうか。競技中に集中すべきこと、つまり、自身のタスクに意識を全投下できる能力です。


6.競争意欲

負けん気、積極性、諦めない心のことを指しています。


7.ハードワーク

言葉の通り、競技に対する高い意欲と練習熱心であることです。


8.目標設定と目標達成能力

諦めたくない目標をセットする能力と、その達成に向けた努力や明確な戦略を立てる能力です。


9.コーチャビリティ

初めて聞いた方も多いかもしれません。これは周りからのフィードバック(指示や建設的な批判も含む)から学ぼうとする姿勢のことを指します。上に行く人ほど、フィードバックを自分への批判と捉えずに、伸びしろであると捉える傾向にあります。


10.希望

少し8と重複しますが、ここで言う希望とは、目標達成への期待感と自分らしい目標達成方法を持っていることと定義づけられています。


11.楽観的思考

スランプやうまく行かない時でも、いつか良いことが起こると考えられる思考のことを指します。楽観的な思考は、困難にぶつかったとき、自信や粘り強さをもたらします。


12.完璧主義

完璧主義とは、高いスタンダードを持ち、妥協を許さないことで知られています。完璧主義には、不適応完璧主義と呼ばれ、無意味にミスを恐れたり、批判的になったり、自分を信じられなくなったりしてしまう側面もありますが、金メダルを取るオリンピアンたちは、完璧主義をハードワークに結び付けているのです。


以上、これらが金メダリストに共通する心理的要素でした。

これらにより金メダリストは競技力が高められ、かつ、その高い競技力が大舞台で発揮されるということなんですね。

しかしながら、最もお伝えしたいのは、金メダリストってすごいね~ということではありません。


これらの心理的要素はメンタルスキルと呼ばれます。

スキルと呼ばれるのは、持って生まれたものではなく、獲得できるものという意味合いが込められているからであります。


つまり、鍛えれば誰でも獲得できるということなのです。



トップアスリートは技術、体力を鍛える練習を行うように、心を鍛えるトレーニング(メンタルスキルトレーニング)にも時間を割いています。


その結果として、このようなメンタルスキルを獲得しています。


メンタルスキルの鍛え方…知りたくありませんか?





あれ。



318日にちょうど良いセミナーがあります(笑)



「オリンピアンから学ぶ一流になるためのメンタルスキル」 

日時:318日(日)1012時(開場9:45)

場所:大田区産業プラザPiO(京急蒲田駅前)

住所:大田区南蒲田1丁目20-20

参加費:3,000円


セミナーでは、平昌オリンピックの感動名場面を振り返りながら、オリンピアンが実行するメンタルスキルトレーニングをご紹介します。 


それらをみなさんの日常のニーズに実践応用していただくことを目的としております。


ご興味ある方は、FB上でご連絡いただくか下記にメールください(^^)


ban.seminar@gmail.com

お待ちしております。


それでは~

バン

2018年2月26日月曜日

あなたの“成功”に対する考え方が周りの人の行動を変える

こんにちは。メンタルコーチの伴です。


平昌オリンピックが閉幕しましたね。日々の楽しみが一つ減ります



いやぁ~しかし、全ての日本選手が素晴らしい活躍を見せてくれました。



メダルを獲得された選手たちが称賛されるのはもちろんですが、メダルに届かなかったもののオリンピックという大舞台で自己ベストを出した選手、出すために全力を尽くした選手たちにも惜しみない称賛が与えられてほしいなと願います。



称賛。評価。



実はここに実力発揮の環境づくりのポイントが秘められています。



評価とは、「その行動は望ましいのでを続けてほしいんですよ」というメッセージであり、その裏には、評価する側の成功に対する考え方が潜んでおります。



評価には、結果にするものとプロセス(行動)にするものがありますよね。



結果で評価するというのは、結果を得ることこそが成功という考えの表れであり、「あなたは望ましい結果を出したので、素晴らしいです」という風に捉えられます。



結果はわかりやすく、かつ公平に評価するために持ってこいの指標であります。



ただ、結果だけで評価される環境で育つまたは身を置くと、成功=良い結果を出すこと(スポーツで言えば勝利、ビジネスで言えば利益、学業で言えばテストの点数)という考えが身に付きやすくなります。



人には、人に影響を与えたい、人の役に立ちたい(関係性)という基本的な心理ニーズが備わっており、自分自身で確固たる評価軸がない限りは、置かれた環境の評価基準は大きな関心事であるからです(Deci & Ryan, 1985, 1991, 2000)



しかしながら、結果というのは、個人(やチーム)が完全にコントロール出来るものではありません。



大会で勝てる見込みが限りなく100%に近いアスリートがいたとしても、100%の確証を持つことはできません。


有能なビジネスパーソンでも、思い通りの利益を上げることはできませんし、どれだけ優秀な学生でも、受験の前に100%合格できる確証を持つことはできません。



結果で評価するというのは、この“不確定さ”にも責任を負わせるということです。



目標としている結果が明確で現実的あれば、そのような評価制度でも、短期的には意欲は上げられます。


しかし、その目標が困難であったり、期待が大きくなればなるほど、失敗に対する恐れが高まり、そのタスク(スポーツ、仕事、勉強など)に対する意欲は下がり始めます。


この図☟で言えば、左に移動します(右に行けば行くほど意欲が高まる)。


実力発揮の基本として、“結果はプロセス(行動)の副産物”というものがあります。



完全にコントロールできるのは自分の行動のみであり、結果を望むならそれに相応しい行動を起こすべしという考え方です。



実力が発揮されやすい状態とは、やるべきこと(プロセス)に意識が投下されている状態であり、努力や成長を評価されるシステムこそが、個人がプロセスに集中できる環境づくりに重要な役割を果たします。



アスリート、社員、子供に望ましい結果への行動意欲を高めてほしいのであれば、評価する側が下記の考え方の持つことが必要です。



1.結果は重要な目標であるが、最も重要な目的ではない。


2.勝ち負け(ビジネスで言えば契約受注逸注、勉学で言えば受験合格不合格んど)は結果によって決まるが、成功失敗は結果によって決まるものではない。


3.成功とは、目標に向かって行った努力やそれによる進歩である。結果が伴わなかったとしても、目標に向かって全力を尽くしたのであれば、決して失敗ではない。


4.負け=失敗ではない。負けること(受注を逃す、受験不合格など)が、失敗であったり、人間として価値がないことの証明ではない。


この考え方に基づく評価がなされる環境が、この環境下にいる個人の失敗に対する恐れを下げ、タスクに対する意欲やパフォーマンスの質を高めることが研究で明らかになっています(Smith, Smoll & Passer, 2002)



つまり、指導者、リーダー、親御さんなどの成功に対する考え方が、アスリート、同僚、子供の実力発揮や努力量に大きく影響しているのです。



ちなみに、アメリカでは、30年を超す長年の研究を基に作られたCoach Effectiveness Training(CET)という組織的なナショナルアスリート育成プログラムがあるのですが、このプログラムの基礎となったのが、上述の考え方であります。



私も講習をさせていただくときには、この考え方を取り入れています。



例えば、中学生や高校生に対して講習を行う際は、必ず講習の冒頭に、発言をすること自体がクラスへの大きな貢献であること、正解不正解は大きな問題ではないこと、そして、授業の最後に最も授業に貢献してくれた人3名を表彰すること(発言してくれるたびにチョコをあげ、授業の最後にチョコを一番多くもらった人が授業に最も貢献した人)を、伝えるようにしています。



また発言してくれた時に、その行動を後悔させないような雰囲気づくりを忘れないことも重要です。



素直な中・高校生の爆発力はすごくてですね(笑)失敗に対する恐れをなくしてあげると、ものすごい数を発言してくれるようになります。先日の3時間の講習では、60個のチョコレートがなくなるほどでした。



結果を求めることだけではなく、彼らが唯一コントロールできるもの=行動(努力)に対して、しっかり評価してあげる評価制度づくりが重要なんですね。



このアプローチは未成年だけではなく、大人にも有効であることがわかっています。気を付けなくてはいけないのは、大人相手に初歩的なことで褒めたりするとやぶ蛇になりますので、評価する内容、褒め方には気を付けなくてはなりませんけどね(Smith & Johnson, 1990)



この理論で言えば、オリンピック後の今、メダリストばかりを称賛するのではなく、自己ベストを出した選手や結果に関係なくオリンピック出場まで上り詰め、大舞台で結果に向かって最善を尽くした努力にも平等に注目が集まれば、もう少し日本人選手たちが結果ではなく結果へのプロセスに意識が向けられるようになるはずです。



まぁ理想論ですが。。。微力ながら、日本人アスリートの実力発揮ができる環境づくりに貢献する投稿をしてみました


以上、周りの成功に対する考え方(=評価)が、その人の努力量に大きく影響するというお話でした。


なお、


次回セミナーは、“大舞台で結果を出す人出さない人のメンタルスキル”を予定しています。


3月18日(日)10-12時@京急蒲田。


ご興味ある方下記までメールください。


ban.seminar@gmail.com



最後まで読んでいただき、ありがとうございました!(^^)!


それでは~
バン