2017年9月12日火曜日

“プレッシャーに強い人”になる方法

こんにちは。メンタルコーチの伴です。


今回はプレッシャーに関する投稿です。


“プレッシャーの掛かる大会で練習通りの力を出せない”、これは相談を受ける中で一番多い悩みかもしれません。


先日ある大学の部活の合宿に帯同させていただき、スポーツ心理学とは?メンタルトレーニングとは?という話をさせてもらう機会がありました。


競技の特徴もその理由でしょうが、競技者達の悩みの大多数がプレッシャー関連でした。


私自身も学生時代はテニスをしていた時、スポーツ心理学を学び始めたきっかけは、どうやってプレッシャー環境下で実力を発揮するか、というものでしたし、アスリートの親御さんから、息子が本番にとことん弱いタイプなのだが、どうしたらいいのかという相談を受けたこともあります。


“本番に弱いタイプ”、それを変わらない人間性だと捉えられている方が多いですが、科学的根拠を基に強く否定します。これは鍛錬できる“メンタルスキル(脳の使い方)”なのです。


その脳の使い方を習得する方法を書いていきます!


まずは、なぜプレッシャーが起こるのか、について考えましょう。


プレッシャーとは、ある外的要因によって引き起こされるストレスの一種です(Dosil, 2006)。


プレッシャーが発生する流れについて、Pearlin氏(1981)のストレスプロセスモデルを基に説明します。




脳はあるイベントに対し、自動的に2ステップで状況把握を行います。

(1)自身に利害関係があるかどうか。
(2)そのイベントにおいて得たい結果を得られるリソース(能力、スキル、サポート含む全ての資源)があるかどうか。


イベント=競技大会としましょう。


大会での結果がどうであれ自分には影響を及ぼさないと認識した場合、プレッシャーは出てきません。


逆に、結果が自身にとって重要と認識した場合は(2)の自身のリソースとの比較に移ります。


ここで、自身のリソースがあれば確実に望んでいる結果が手に入ると認識した場合、プレッシャー(ストレス反応)は出てきません。


逆に、望んでいる結果が手に入らない、もしくは、手に入るかわからないという認識をした時にプレッシャーが出てくるという流れです。


ちなみに「認識」という言葉を使っているのは、リソースの実態ではなく、リソースに対するセルフイメージ(自信)とストレス要因(ここでいう大会)との比較であるからです。


ただ、どの競技においても言えることですが、“結果”というのは競技者のプロセスによる副産物であり、コントロール出来ないものです。


従い、どれだけ自信が高くとも、結果に対する不確実性というものは残ります。結果を残したい。でも結果を残せるかわからない。そんな考えが生まれ、プレッシャーは出てくるというのは至極当然のことなのです。


プレッシャーを感じているということは、自身が目の前のイベントを重要視しているサインと捉えてあげることが第一歩です。


さて、プレッシャーの発生プロセスはわかりました。でもそれがどのようにパフォーマンスに影響を与えているのでしょうか。


結論から言うと、結果を残したいという思考が、本来集中しなくてはならないものへの集中力を阻害するからです(Boutcher, 2002; Magill, 1997)。


勝ちたいと思うと、「これは失敗できない」、「このポイント大事だぞ」なんて思考が出てきます。


本来集中しなくてはならないものとは、もちろん競技により異なりますが、良いパフォーマンスをするための技術的なポイントだったり、戦術を決定するための情報だったりします。


人の意識というのは限られた資源です。それを勝てるかな、勝てないかな、という思考に消費する間、集中しなくてはならないことを見逃してしまうということなのです。


では、どのようにプレッシャーをコントロールするかについて、2つのアプローチを紹介します。


(1)プレッシャー自体を軽減する
(2)意識をコントロールする方法を身に付ける


それぞれのアプローチに関し、2つずつスキルを書いていきますね。

(1)プレッシャー自体を軽減する

①自身の強みに目を向ける癖をつける

上記では、プレッシャーは自身に対するリソース(いわば自信)とストレス要因の比較で出てくる、また、結果はコントロール出来ないものなので、その不確実性がプレッシャーを生むという話をしました。


プレッシャーがなくなることはありませんが、自信が高いとプレッシャーという感情が軽減します。


前回の投稿で、日本人は不安を抱きやすい人種であるという研究を紹介しました。自分に厳しい人ほど、持っているものよりも、足りないものに意識が行きがち。悪いことではありませんが、自信を持ちにくいという話でした。


なので、あえて自身の持っているもの、強みは何かということを意識的に考えるようにする。その思考の繰り返しが、リソースに対する認識をポジティブに深め、結果プレッシャーを軽減することに繋がります。


②“なぜ”を考えることでプレッシャーを軽減する

プレッシャーは望む結果に対し、達成できるかどうかの不確実性により出てくるということでした。


この望む結果を、トロフィーや順位ではなく、自分の成長にリンクさせられるとプレッシャーは軽減されます。


私が通っていたデンバー大学大学院の教授がメントレを行っていたアルペンスキーヤーのお話です。


冬季オリンピックでのこと。一回目の滑走が終わりトップのため、2回目の滑走順が最後に割り振られました。


自身の前の滑走者が、素晴らしい滑りをし、さらに良い滑りをしないと金メダルを取れない状況で出番が回ってきました。


その状況にとても緊張を覚えたそうです。ただ、その状況で彼女が行ったメンタルスキルは、“なぜスキーをやっているか”を振り返ることでした。


「オリンピックで金メダルを取ることは、目標である。ただ、スキーをずっと続けている目的は、この大好きなスポーツをさらにうまくなりたいということだ。この緊張する場面で、いつもの滑りを出せる自分に挑戦する。そちらのほうが金メダルを取ることよりも大事だ。」


そう考えたそうです。人は結果に囚われがち。そしてそれがプレッシャーを肥大化させるのです。


なぜそれを始めたのかを考えることで、その目的を思い出すことで、プレッシャーを低減するスキルの素晴らしい例です。


そのスポーツを始めたころの想いを思い返してみてください。なぜそれを始めたのでしょうか。大会で優勝するためだったでしょうか。大会での結果は目標であり、目的ではないはずです(無論、練習時には、目標もやる気を引き起こすためには必要ですが)。


(2)意識をコントロールする方法を身に付ける

プレッシャー環境下で、実力発揮を阻害しているのは、集中すべきタスクから意識が離れてしまっているからだという話をしました。


①プロセスゴールを見極める

従い、集中すべきタスク何かを見極めることから始まります。そして、それは望む結果からのプロセスへの細分化で見い出せます(Weiberg, 2002; Gould, 2001)。


望む結果(アウトカムゴール)
   ↓
アウトカムゴールを達成するために必要なパフォーマンス(パフォーマンスゴール)
   ↓
パフォーマンスゴールを達成するために集中すべきタスク(プロセスゴール)


スキーを例にすると、下記になるかと思います。

アウトカム:〇〇秒でゴールする

パフォーマンス:納得のいく完璧なターンを最低5回する

プロセス:外側に体重を乗せる

※スキーは全くやったことがないので、内容の正当性よりも、やり方をご理解いただければと思います。コーチなどがいるようであれば、どのようなプロセスゴールを設定すべきかを相談して決めていくことをお勧めします。


〇〇秒でゴールすることを目指すわけですが、レース中に結果を考えることは、阻害要因でしかありません。


望む結果を得るために集中すべきプロセスゴールをレース前に決めておくことで、限られた資源である意識を有効に使うというアイディアです。


プロセスゴールは、戦略によっても異なると思います。会場のコンディションなどにより変わるでしょう。技術面、戦術面を考慮に入れたうえで、得たい結果に直結するプロセスゴールを設定することがキーです。


このプロセスゴールが多すぎても、パニックになる要因になります(Hardy, Jones & Gould, 1996)。ですので、集中できる範囲で決められることが重要です。


②セルフトーク(キューワード)

集中する対象が決まった後は、それにどのように意識を集中させるかということが大事になってきます。


最もよく使われているスキルにセルフトークというものがあります。


セルフトークとは、自分自身への声掛けであり、脳がポジティブなセルフトークで満たされるとパフォーマンスが発揮されやすくなるという研究が多数あります(Weinberg & Gould, 1999; Bunker, Williams & Zinsser, 1993)


ここでは、意識のコントロールのツールとして紹介します。


プレッシャーの掛か大会中には、冷静時に考えられることが、全く考える余裕がなくなることもしばしばあります。そんな時でも、プロセスゴールをリマインドできるキューワード化をすることが有効です(Zinsser, Bunker & Williams, 2001)。


外側に体重を乗せる、を「外」などのシンプルなキューワードとし、レース中に、「外、外」と自身に語り掛けることで、プロセスゴールに意識を向けることが出来るのです。



プレッシャー対策のための2つのアプローチ、(1)プレッシャー自体を軽減する、(2)意識をコントロールする方法を身に付ける、ご理解いただけましたでしょうか。


ご自身の競技(ビジネスパーソンの方はプレゼンなど)に当てはめて、考えてみることでさらに理解は進みますよ(^^)/


それでは~
バンヒロ

2017年9月4日月曜日

希望に溢れる子供の育て方

こんにちは。メンタルコーチの伴です!


9月1日は1年で最も未成年の自殺数が多い日なのだそうです。夏休み明けの学校初日、いじめられたりしている子は学校に戻りたくないと考えるのでしょう。


ニュースで知り、とても悲しい気持ちになりました。少し経ってしまいましたが、そんな子供たちを救える方法について考えてみようと思いました。


子供たちが自殺に至るまでの思考プロセスに思いを巡らせてみると、置かれた状況を抜け出す希望が見いだせなかったのではないかと胸が痛みます。


友達と仲良くしたい。当たり前の感情であり、多くの子供が望んでいることでしょう。


その望む結果に反し、いじめという現実を突きつけられる。


「どうやったら、この状況を抜け出し、仲良くなれるのか。」


色々考えてみても、なかなか方法を見い出せない。乗り越えられる自信も持てない。


そして、自分の未来に絶望してしまい、自殺という行動に追い込まれて行ってしまうということなのではないでしょうか。


子供に対し自分の力で希望を見い出せというのは酷な話なので、周りのサポートがとっても重要です。親として、指導者として、メンタルトレーナーとしてどのように“希望に満ち溢れる脳を育むか”という長期的な視点をテーマにします。


学術的には希望とは、下記2つの和であると定義づけられています(Rand & Cheavens, 2009; Snyder, 2000)。

(1)望ましい結果のために、困難を乗り越える道筋を立てられる力
(2)その道筋を実行するやる気またはやり抜く力


希望は困難に直面した時こそ力を発揮します。


高いレベルで希望を持っている人は、失敗よりも成功について考えることがわかっています(Snyder, 2000)。効果的な達成方法を見い出し、かつ、自信を高く保つことできるため、目標達成する可能性が高まるわけです。


友達からいじめを受けるという困難に直面した時に、絶望に打ちひしがれるのではなく、この状況をどう好転させられるかを考えられる脳を育てることで、最悪の結果(=自殺)を抑止するというアイディアです。


では、どのようにすればこの“希望”を育むことができるのでしょうか。


その答えは、上述の希望に関する定義にあります。

(1)望ましい結果のために、困難を乗り越える道筋を立てられる力
(2)その道筋を実行するやる気またはやり抜く力


日常の例を使って、一つずつ考えていきましょう。

(1)望ましい結果のために、困難を乗り越える道筋を立てられる力


例えば、次の運動会の徒競走で一番になりたいA君がいるとします。同じ組には現時点で自分より足の速い子がいるそうです。


望む結果=徒競走で1番になる
困難=同じ組に自分より足の速い子がいる


結果達成の方法として、「正しいフォームを学び、それを身に付けることで、自身の走力を上げること」が挙げられるでしょう。


本人が思いつくようであれば素晴らしいですね。もしその方法を思い浮かばない場合には、周りの大人がリソースとなり、有効な方法を設定する手助けをしてあげることが重要です。


さらに、この方法で行くと決めた場合、正しいフォームに関する情報も必要ですね。ネットで調べるもよし、図書館に連れていくもよし、専門家に依頼するもよし、そういうリソースを提供してあげるサポートをしてあげましょう。


こういう日々の経験を通して、望む結果をどのように達成するかという問題解決への道筋を立てられる力を高めてあげることが希望に溢れる脳を作るポイントです。


Snyder氏(2000)の研究では、たくさんの困難を経験している人ほど、高いレベルの希望を抱きやすいということが明らかになっています。


可愛い子には旅をさせよ。我が子が可愛いなら世の中の辛さや苦しみを経験させたほうが良いという意味のことわざですが、科学的に証明されているんですね。


ただ突き放すのではなく、必要に応じて親や指導者がリソースになってサポートしてあげてください(^^)


(2)立てた道筋を実行するやる気とやり抜く力

やり抜く力とはいわば自信です。


先ほどの例を使うと、正しいフォームを身に付ければ足の速い子に勝てるんだと、自分の能力を信じられるかどうかです。


自信は、過去の経験に対する本人の捉え方の積み重なりで作られるセルフイメージです。ですから、日ごろから自身の良かったことに目を向ける思考の癖を作ることが自信を高めるうえで大きな役割を果たします。


ある体験の結果の原因を何に求めるのかを理論化した帰属理論というものがあります(Heider, 1958; Weiner et al, 1971)。


楽観的な人と悲観的な人では、下記のような差があると言われています(Seligman, 1991)。




説明します。

楽観的な人は、うまくいったときに「これは自分の○○が良かったんだな」と内的要因に原因を結びつけます。逆にうまくいかなかったときは、運がなかったなど外的な要因に結びつけます。


かたや、悲観的な人はその逆です。うまくいったときには、「今回はたまたま調子が良かった」などと外的な要因に結びつけ、うまくいかなかったときには、「私の○○が良くなかったんだ」と内的な要因に結びつけるのです。


ギクッとした方多いかもしれません。


日本は悲観的と呼ばれる脳を持つ人が世界で一番多いという統計があります。


悲観的なことが悪いわけではありません。うまくいかなかった原因をそのままにしない日本人の素晴らしい性格がものづくりのレベルを高めていることは間違いありません。


ですが、自信の観点から見ると、悲観的な思考は自信を積み上げにくい、ということなんです。


でも、ご安心ください。


この楽観主義は獲得できるスキルだと証明されています(Seligman, 1991)。親御さん、指導者の方は、子供の自信を高めるためには、成功した体験の後には、内的な部分(努力、能力、思考など)で何が良かったのかを考える機会を与えてあげるようにしてください。



その積み重ねが、自分の強みを認識する手助けになり、いずれ思考の癖になってきます。


その思考の癖により、自信が高められ、困難にぶつかったときにやり抜く力としてお子さんをサポートします。


一昨日のこと、たまたまですが、大手メーカーに勤める友人が研修で、ビジネスパーソンとして成功する2つの能力として、問題解決能力前向きさであると習ったと聞きました。


まさに“希望”じゃないか~と思いました。


自殺を防止するというテーマで考えていたことが、企業が必要としている人材にもつながってくるんだなと、今これ書いていてワクワクしてます(笑)


数字だけ見ると人口減少で将来への不安が募ってしまいますが、一人一人の質的には何やら“希望に満ちた若者が多いジャパン”になってほしいなと思いますし、そうなれるようなサポートをこのメンタルコーチという仕事を通じて行っていきたいと思います。


話はそれましたが、希望にあふれる子供は育てられる、そして、そのためには周りのサポートが必要!というお話でした。


それでは~
バンヒロ